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ドアを勢いよく開ける。
ただいま、と叫ぶように言うと、エイミーが玄関までやってきて「おかえり、ニール」と笑った。
美味しそうな匂いに誘われ、キッチンに向かうと母さんがエプロン姿で「おかえりなさい、ニール。今日はシチューよ」と笑顔で迎えてくれる。
手を洗ってうがいをしてきなさい、と母さんに言われたので、言われなくても分かってる、と怒ったふりをして洗面所に向かう。
コックを捻って手早く手洗いうがいを済ませると、2階の部屋へ。
「ライル!」とノックもせずに部屋に入ると、同じ顔をした片割れはベッドに腰掛けて読書中。
シンメトリーに家具を配置された部屋は両親達が用意してくれた俺達の空間。
「おかえり、ニール」
「うん、ただいま」
本から一度顔を上げたライルの横に腰を下ろして、ライルの読みかけの本を覗き込む。
小さな文字がずらずらと並んだ黄ばんだ紙面。
挿絵するらもない、年季が入ったそれを見て、思わず眉間に皺が寄る。
「また読書?」
「うん」
「楽しい?」
「楽しいよ」
デジタルが主流となりつつあるというのにライルは紙媒体の本を好んで読んでいる。
週に一度は図書館に通い、楽しそうに本を選ぶライルのことが俺はいまいち理解出来ない。
たまにライルと共に図書館へ向かうことはあるが、俺はあの図書館独特の雰囲気が苦手で居心地の悪さに耐えられず、ライルを置いて早々に帰宅してしまうのが常だった。
「俺には分からない」
そのまま後ろに倒れ、柔らかな感覚を背中に感じる。
きっと母さんが干したのだろう。布団から漂う太陽の匂いを吸い込む。
ライルの匂いはしない。
エイミー曰く、俺達は同じ匂いがするらしい。
父さんからはコーヒーの匂いが、母さんからは花の匂いが、そして俺達は同じ太陽の匂いがするのだと愛しい妹は俺達に言った。
エイミーからは甘い匂いがする、と二人で口を揃えて言うと、エイミーはそれはきっとキャンディーの匂いよ!と笑っていた。
「読書の楽しみが?」
「うん」
ライルは苦笑し、勿体無いなぁ、と言うと再び顔を本へと戻すと乾いた音を立ててページを捲る。
何だか置いてけぼりにされた気がして、ムッとする。
「ああ、本当にライルは・・・
「活字中毒者だ!」」
寸分違わず同じタイミングで被った台詞に二人でプッ、と噴出し腹を抱え大笑い。
するとエイミーがどうしたの?とノックもせずに部屋に入ってきた。
別に何でもないよ、と再びライルと異口同音に言うとエイミーは、すぐ二人は秘密にするわ!と頬を膨らませる。
そんな妹が可愛くて、俺達は再び笑い声を上げる。
嗚呼、なんて幸せな世界だったのだろうか。
今は昔のその頃を思い出しても、もう戻らない。
エイミーはあの頃から時を止めてしまった。
幸せな世界が続いていたのならば、きっと今頃は母さんに似た綺麗な女性になっていたことだろう。
そして、彼氏が出来て、ライルと二人で「一体どこの男だ!」なんて憤慨していたかもしれない。
今となっては、全て夢物語になってしまった。
ライル、お前に逢いたいよ。
何も言わず離れていった俺がこんなことを想うのは何て勝手なことなんだろうな。
自嘲気味に笑うとブックストアの棚から一冊の本を手に取る。
あの日ライルが読んでいた、あの本を。
katharsis
実は「趣味が読書」ってのはライルのことで、ニールは本が嫌いだったら面白いなーって。
趣味が読書になったのは「ロックオン・ストラトス」になってからだと萌える。
(2008.06.02)